草津紀行2009秋
この3ヶ月、仕事でささくれ立った気持ちが残ったままだった。
分単位のプレッシャーと五月雨式にやってくる課題に追われて休みなく働いたせいか、
『しなければならない』に縛られ続けた状態から切り替えがきかなかったのだ。
それは今回の旅にも影響してか、『禍福はあざなえる縄の如し』という呪文も効き目がないまま1日目が始まった。
1日目 快晴
草津へのアクセスは前回と同じく高速バスにした。
乗車場の新宿西口へは地下鉄で
門前仲町〜(東京メトロ東西線)〜九段下〜(都営新宿線)〜新宿というルートを使った。
ただ前回利用したJR高速バスではなくキラキラ号という格安高速バスにした。
料金は片道2800円と前回より300円高くなるが、軽井沢経由で浅間酒造に寄れるからだ。
乗車場は新宿になるが、JR高速バスのようなバスターミナルがあるわけではない。
新宿の日本工学院前の交差点にバスが止まり乗車するシステムで、はっきり言って本当にちゃんと乗れるのか不安だった。
わかりやすいランドマークとしては下の二つビルがある交差点になる。
乗車場では赤いジャンパーを着たバス会社の社員がボードをもって大きな声で到着しているバスの案内をするため、呼びかけていたから、着いてしまえば難はない。
本来9:00出発のはずだったけど、渋滞の為9:15にバスが到着し15分遅れで出発。
ところがここで1発目のアクシデント。
出発と同時に缶ビールを開けてテーブルに置いていたが、バスが方向転換した時に床に落ちて全部こぼれてしまったのだ。
こんなこと普段の自分なら予測できたはず。
なんだか苛ついている自分が情けなくなった。
関越道に乗ったバスは2時間もたたないうちに渋滞に巻き込まれ、最初の休憩時間が20分から10分に変更になった。
これは土日祝の高速道路1000円化の影響だろう。
バスは軽井沢より一般道路に降りて中軽井沢の交差点を右折し、少し雪をかぶった浅間山を眺めながら山道へと入っていった。
それから30分程で浅間酒造に到着。
昼食を楽しみにしていた浅間酒造には1時間遅れで到着したから、休憩時間が40分から20分になったため、昼食などとる暇がなくなってしまった。
仕方がないので、一番人気の大吟醸を買って一服した後、そそくさとバスに戻った。
草津に到着したのは予定の1時間遅れの14:30。
草津は標高1200mにあるので寒さを考えてジャンパーを羽織っていったが、まるで10月半ばの東京と同じくらいの気温。
坂の多い温泉街を歩いているだけで汗が噴き出すほどだった。
とりあえず昼食がまだだったので考えたあげく次の日に行く予定にしていたどんぐりで摂ることにした。
この店のお薦めのメニューはどんぐりハンバーグ。
でもまさかそれだけとはいかずハンバーグコース(2,620円)を注文。
まずはポタージュと野菜サラダ。
その後、野菜とデミグラソースのたっぷりとしみこんだハンバーグ。
最後にデザートとしておおぶりのメロン、それにドリンクはアイスコーヒーを選んだ。
店が15:00にいったん閉店になることを気にして一気食いしてしまったので、
なんだか味わうというより、一気食いみたいになってしまったけど、
値段相応の内容だったので立ち寄って良かったと思う。
店長も気さくな人で「最近のペンションはオーナーシェフが減っている」とか『草津のペンション事情とか』教えてもらったりして歓談し、気分良く店を出た。
ところがここで2発目のアクシデント。
店を出て気づいたら2日間着る予定だったシャツにデミグラソースがべっとり服についていて宿についてから着替えることになった。
宿泊予定のレザンには14:40到着。
というのもどんぐりから歩いて50mほどの所だったのだ。
「15:00チェックインだから早く着きすぎたけど大丈夫でしょうか?」と訪ねたら大丈夫とのこと。
世間話として
「宿の横にあるアマチュア無線の大きなアンテナがありますけど、よくやられるんですか?
僕もアマチュア無線の免許は持っているもので。」と訪ねたら
「ハムのアンテナは先代がつかっていたもの。撤去するのも面倒なのでそのままにしている。」とのこと。
なんだか話がかみ合わなかった。
一通りの宿泊説明を伺って、温泉堪能プランのチケットを受け取った後、
「ピアノを弾かせてもらえないでしょうか?」と訪ねたら「他のお客様の迷惑になるので。」と断られた。
しかし、僕の他にはまだ誰も到着していないようだったので、観るだけでも良いからと言ってお願いして食堂へと案内してもらい
そそくさと1分程弾いたのだった。
オーナーは照れたように「実はここ2年ほど調律もやっていなくて、鍵盤も堅くて...」と言われた。
ただこれがきっかけで、ひやかしの素人演奏ではないとわかったのか、その後少し話し口調が優しくなった。
大体この宿は若いカップルを想定したお洒落な内装になっている。
実際、今回の宿泊客は僕を除けば3組の若いカップルだけだった。
部屋に入ってすぐパソコンを持ってきたのでコンセント式LANケーブルをお借りして、部屋に戻り接続チェックをしてみた。
鏡台の小さな机で接続したのだけど、回線がかなり遅い。
後で聞いたことだけど、草津ではまだ光ファイバーが届いておらずADSLとのこと。
それも隣町の嬬恋村には光ファイバーがあるのに。
とどのつまりは、隣町にはADSLが届いておらず先に隣町が光ファイバー化されて、草津はADSLが普及しているので後回しになっているらしい。
でもメールチェックやウェブをやるには、とりわけ遅すぎるということではないから、ネットブックを持ってきて正解だった。
ただ気をつけないといけないのが鏡台のコンセントは一つしかないこと。
枕元の台の裏にもコンセントがあるが、こちらでは接続不能。
なので枕元の台の裏のたこ足プラグを鏡台に差し替えてパソコンとLANをつなぐ必要があった。
接続後、服を着替えて一服。
部屋の内装は隅々まで綺麗でトイレも問題なし。
昔、神戸の六甲山にあるYAMAHAの保養所で泊まり込みのアルバイトをしていたから分けるけど、
宿の手入れはトイレを見れば一目瞭然なのだ。
荷物の整理も終わり、温泉街へ繰り出すことに。
まずは西の河原露天風呂(さいのがはらろてんぶろ)へ
ペンション街からベルツ通りを下って、前回泊まったペンションきんだいを過ぎ、15分くらいほど。
15:45に到着。
前回来た平日とは違って、東日本一広い露天風呂も猿の入浴状態で人がいっぱいだった。
でもこの方が大露天風呂らしいようにも思ったし、やっぱり快晴の露天風呂は極楽なのだ。
ところがここで3発目のアクシデント。
露天風呂に浸かってから気づいたのだけど、めがねをかけたまま入ってしまったのだ。
草津の湯は強酸性なので金属を簡単に溶かしてしまう程。
なんとか頭にめがねを引っかけて入浴していたけど、宿に着いてからめがねの鼻置きがポキッともげてしまったのだ。
ただ僕のめがねは超計量のスポーツタイプなので使えなくなるわけではなく、左右の枝の部分で固定されるからなんとかなったけど。
しかたなく壊れためがねをかけて、16:30〜17:30で予約していたテルメテルメのタイ古式マッサージへ。
担当は前回7月に来た時と同じセラピストのゆりさん。
実は紅葉まっさかりの10月24日に旅する予定で予約していたのだけど、仕事の都合で変更を余儀なくされて
指名も難しいと言われていたのだった。
まーこれは予定通りになってよかった。
暫くゆりさんと話しながら、
「今日はどのあたりが一番お疲れですか?」と聞かれたけど
かなり愛想も続かないくらい疲れていたので「全部」って、ぶっきらぼうに答えてしまった。
その後、草津の紅葉は例年通り10月下旬で終わっていたことと、1週間前ほど草津にも初雪が降ったらしいことなどの話を聞いたのは憶えているけれど
心身がかなり疲れていたのだろう。
治療が始まって10分も経たないうちにいびきをかいてしまうありさま。
自分のいびきで目を覚ますなんて初めて。それも1時間の間に4回も。
終わった後。
ゆりさんから温かいハーブティを入れてもらい
「かなり疲れていたのですね。」と言われたけど「ええ。仕事で。」と答えるのがやっとだった。
ただその後は頭と眼球と身体がほぐれたからか、観光モードのスイッチが入って、やっとくつろげる気分になった。
草津に来たらここだけは外せないなと思ったくらいだ。
さて、ベルツ通りを出たら既にあたりは暗くなっていて、今回一番の目的であるディナーを味わうためレザンへと戻っていった。
18:30からの夕食で席に着いたけど、昼食が遅くてボリュームがあったせいか、最大の調味料である空腹状態でない。
それでも身体がほぐれていたので、食欲がまったくなくなっているわけではなかったからワクワクしながら食堂へ赴いた。
レザンの一番の売りはワイン。
オーナー自身フランスで修行しソムリエの資格を持っていて、厨房もこなす。
余談だが、どんぐりの店長曰く「草津の1級ペンションではほぼ自家製の野菜を使ってアレンジされる。」とのこと。
さて食事前にワインの注文。
僕はいつもフルボトルを注文するけど、今回のコースに魚料理と肉料理の両方が出されるので、白と赤をハーフずつにした方がいいと勧められて
一通りのわかりやすい種別の説明を聞き
白はアルザスリースリング1/2と赤はシャトーレイソン1/2を注文した。
まずはオードブル。アルザス風シュークリート
自家製野菜とベーコンとウィンナーの組み合わせ。
オードブルとしては結構なボリュームでリースリングワインに合う。
ここで焼きたての自家製パンが登場。
メイン料理が来るまでこのパンとワインだけで終えてもいいくらいだった。
勿論、スープやソースを拭き取って口に含むためにおかわりもした。
次が自家製畑のコーンスープ
これは絶品。
僕はスープではコーンスープが一番好きだけど、ここのスープはコーンの粗挽きが食感に残り
飲むというより、ほんとうに味わうという表現がぴったり来る。
そして秋鮭のポアレ タルタルソース
鮭のパリパリ感とタルタルソースのハーモニーが絶妙で、「これがメインです。」と言われもいいくらい。
それとリースリングワインを交互に飲むと舌慣れなく口に含む度、風味が新鮮で、脳からドーパミンを出させてくれる。
ここでシャトーレイソンの登場。
口に含んだら普段あまり飲まない渋めの味。
「ああ、けっこう渋いですね。」って言ったら
「そうなんです。でもこれが鹿肉と一緒に味わうと結構合うんですよ。」って言われた。
ということで今回のメインは鹿肉のソテー ボルドレーズソース
正直、これが出てくるまでで満腹に近かった。
ところがワインの渋さも手伝ってか、どんどん入ってくる。
鹿肉は女性だと切りにくいだろうと思うくらいナイフでは固かったけど
口に含むと予想外に柔らかい。
ボルドレーズソースは主役の邪魔をすることなく、鹿肉とワインの風味の3種を計算し尽くされて作られたような助演ぶり。
最後はデザートの小ぶりなレアチーズケーキ。
それに飲み物は朝にコーヒーを注文する予定だったので夜はミルクティーにした。
いやー今回は大正解。
カップルで来るには最高のディナーだっただろう。
でもひとりで来るのも悪くない。
席の配置から全て孤独感を感じることなく堪能できたし。
残念なのは昼食を遅くとったせいかワインで酔わなかったことかな。
でもこれは次回は気をつければいいことだから仕方がない。
部屋に戻ってから一服した後、レザンの風呂へ入ることにした。
ここの風呂も草津温泉では例外なく100%源泉かけ流し。
ただジャグジーがぬるいので湯を足している間、横の熱めの浴槽につかりながら、
葛飾から来た人と話をしていた。
かといって名前を聞くのは野暮で、根掘り葉掘り聞く関西人は封印して世間話にとどめたけど。
彼は自家用車で来たらしく、途中で八ツ場ダムを観てきたとのこと。
ニュースで取り上げられたせいで人がいっぱいいたとのことだ。
それから、草津は2回目でペンションは初めてらしい。
料理にしても部屋にしても草津でペンションがこんなにお得感があるとは思わなかったらしい。
東京近郊では熱海とかあるけど、あそこは最悪という意見で一致したり。
「次の日の昼食でいいところがないか。」と聞かれたので、僕が行く予定にしているみやたやのことを話した。
ここは観光客が来るエリアではなく地元の人が訪れる食堂で、前回、大滝乃湯のマッサージのおじさんに教えてもらったことを話したら
興味深く聞いてくれた。
「恐らく、彼女を連れて行ったら男の株も上がると思いますよ。」なんておっさんくさい言葉も付け加えて。
風呂から部屋に戻り、明日の段取りなどを考えたり、部屋に置いてある草津温泉の雑誌を読んだりしていたら、うとうとしてきて
11時頃にはふかふかのベッドで眠ってしまっていた。
2日目 曇り
相変わらす気温が高くジャンパーを着ていたら汗だらけになるくらいの日。
8:30に朝食。
とにかく旨い。
内容は
・100%リンゴジュース
・トースト(おかわり自由)
・ハムエッグ
・サラダ
・ブルーベリーヨーグルト
・コーヒー
東の窓から差し込む朝日に包まれて
「頭の中はお花畑。いい気持ちだ〜。いい気持ちだ〜。」※秋山羊子 僕はドロボーのパクリ
Simple is
best!
10:00にチェックアウト。
オーナーから「いかがでしたか?LANはつながりましたか?」とか聞かれ
「はい繋がりました。勿論、来て良かったです。またお邪魔します。」と笑顔で答えた。
ついでに「草津にめがね屋はないか?」と聞いたら、かなり調べてもらったけど見つからないとのこと。
まー東京に帰ったらなんとかしようと思ったので、お礼を言って宿を出た。
坂道を下り、湯畑や西の湯河原通りを散策して、めがね屋も探したらひとつだけ看板を見つけたが、とっくに閉鎖になっている様子。
とりあえず、みやたやの場所だけ確認して10:30に大滝乃湯へ入った。
ここは何回も書いているから箇条書きで
・露天風呂に入る
・大浴場に入る
・サウナに入る
・身体を洗う
・大浴場に入る
・打たせ湯を浴びる
・喫煙所で一服
・コーヒー牛乳を飲む
・15分200円のマッサージチェアを使う
・ソフトクリームを食べる
まーこうしているうちに12時近くになるのだ。
そして今回初伺いの、みやたや食堂に12:30到着。
店内ではNHKのど自慢のテレビがついていて
そう言えば前日、母から聞いていたとおり会場が明石市民会館だった。
話がテーマとそれるけど、父は予選で落ちたらしい。
僕が審査員なら絶対通過させるけど。
だって打って付けのキャラしてるから。
話は戻して最初僕を含めて客は3人だったのに、いっぺんに14人の子連れ客があり、座敷の席を移動。
そうこうしているうちに注文した天ざるうどん950円が出てきた。
これは大当たりー!
揚げたての天麩羅が香ばしく。
うどんもつるつるしこしこ。
山の中だとそばを選ぶ人も多いけど、草津はなぜかうどんのほうが旨いと前回来た時聞いていた。
でもそれはほんまやね。ほんまもんやったね。
さて昼飯をとったらしばらく人気のないところを歩きたくなって、観光街とは反対側の路地を歩きレザン通りの東に出た。
すると下のような風景に出くわす。
前日読んだ草津の雑誌に書いてあったけど、これだったんだと思った。
と言うのも、草津の湯量は半端ではなく温度も高い。
それと坂だらけの街なので冬場車は大変らしい。
だから最近ではレザン通りなどスキー場に繋がる車道の下に温泉を通して道を暖め、雪を溶かす工夫をしているのだ。
そしてこれは水道管ならぬ温泉管代わりにもなって、ぬるめになった温泉水が建物で再利用されるとのこと。
これぞエコやね。
そうこうしながら散歩をして前日に行ったテルメテルメの札を返し忘れていたので立ち寄った。
ついでに「礼状を書きたい」ということでゆりさんのフルネームを教えてもらった。
時間的に中途半端なので13:30〜14:00フットマッサージをお願いしたら
ゆりさんがいるとのこと。
と言うことで30分昨日しなかった話をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。
詳しくはプライバシーもあるので書かないけど、年内で草津から実家の焼津に戻って妹さんと開業するらしい。
ちょっと残念。
本人の承諾を得ているので写真だけ。
15:00に復路のバスに乗るためホテル櫻屋前へ。
定刻通りバスは発車し来た道を走る。
1時間経ったくらいだろうか、
ここで4発目のアクシデント。
パソコンで覚え書きを書いていた時、USBメモリの蓋を床に落としてしまったのだ。
幸い添乗員の人が見つけてくれて大丈夫だったけど。
渋滞で2時間送れて21:05に新宿西口到着。
とりあえず、めがねを買うためヨドバシカメラへ。
ぎりぎりセーフで作って貰えることになったので、30分待つ間、
頭痛薬を買いにドラッグストアへ行ったけど、新宿は好きになれないね。
とにかく日曜夜の新宿は中国語だらけ。
挙げ句の果てに隙あらば行列に割り込みがあったり。
それから旅行中になくしたハンカチを買いにセブンイレブンへ行ったけど、ここでも大行列。
そうこうして、めがねを受け取って帰路につくことに。
帰りは
新宿〜(東京メトロ丸の内線)〜大手町〜(東京メトロ東西線)〜門前仲町
23:00に帰宅。
ここで5発目のアクシデント
帰宅してお茶を飲もうとしたら手が滑って全部こぼしてしまったのだ。
やりきれない。
でも草津にはまた行きたいと思った旅だった。
おしまい。