103日火曜日   上高地散策

午前8時、部屋中の目覚し時計とテレビのボイスアップで眼を醒まし前もって予約しておいたニッポンレンタカー門前仲町 営業所へと歩いていった。ここは2年前フォークライブへ行く時にも利用していて会員カードも有効期限内なので手続きに手間取らない。また24時間営業なので帰りの時間も気にせずにすむからだ。結局選んだ車種はダイハツBoon1500cc。レンタル料金は10/03 08:5010/05 18:00として18,375円になる。手続きは10分程度で9時に発車できることになった。永代通りを通り抜け首都高:神田橋から高速に入り、持参したCDをガンガンにかけながら心を小旅行モードにしていった。中央高速で山梨県に入ってすぐのパーキングで一服し上高地の資料を一切持っていなかったのでマップルマガジンの上高地編838円を購入した後、すぐまた車に乗り西へと向かった。それから2時間程で長野道の松本インターで高速を降り国道158線に入る。ここまでの高速料金は総額5,650円だった。国道158線は梓川に沿って上高地まで繋がっていて、まず道に迷う事はない。

速度は60km/hくらいで走り山道へと入って行く。標高が上がるたびに空気は秋めいてきて山道のカーブを運転していると20代の頃によく行った神戸の六甲山をふと思い出した。

乗鞍へ行く時も通り過ぎる梓湖を右に見て数箇所のトンネルを潜ったら環境保護地区のため通年マイカー規制の始点である沢渡(さわんど)に着いた。レンタカーで入れるのはここまでである。時刻は午後2時、ここから目指す上高地へは15分置きに発車するシャトルバスかタクシーでないと辿り着けない。シャトルバスは往復で1,800円、タクシーだと片道3,500円、要するに4人以上だとタクシーの方が安くなるということだ。勿論僕はシャトルバスを選んだのだけれど、その前にレンタカーを駐車しないといけない。料金は1泊で1,000円。結構な額だ。沢渡は数箇所の駐車場と温泉施設があるだけで他は何もない。でも強いて観光スポットをむさぼる旅ではなく「自然以外なにもない」と言う風景が今回の旅のそこここにあることが必要だったのでバスを待つ間、暫く忘れていた「寛いだ心」を取り戻すのにいい時間になった。シャトルバスはカーブの続く山道を15分ほど走って最初の観光地である大正池に着いた。ここには上高地帝国ホテルがあり以前両親はここで1泊したらしい。僕は終点の河童橋付近に宿をとっていたのでその後5分程度で上高地バスターミナルに到着。平日の日中であるにも関わらず結構な人出だった。でも想像するに土日祝であったら人ごみを避けたことがあだになる程ではないだろうか。観光客は殆どが高齢者でおそらくこの国でこんな時間に観光地へ行けば大体このような風景になるのではないかと思う。

さて時刻は既に午後2時半を過ぎていて昼食もとっていなかったのでターミナルの食堂できのこ御膳800円を注文。秋の香りがした美味だった。この後、最近物忘れがひどくなったことで失敗がわかった。折角、パーキングで買った上高地のガイド本とライターを車の中に忘れてしまったのだ。本はとりに戻ることはできないのであきらめライターだけ買おうとしたのだけれど驚いた事に土産物屋や売店では一切ライターが見当たらない。しかたなく店員の人に聞いたらやっぱりないとの事。諦めてホテルへ向かおうと踵(きびす)を返したところ、店員の人に呼び止められて「マッチでよかったらどうぞ」と言われて2箱頂いた。これがこの日ヘビースモーカーの僕にとって結構活躍してくれたのだ。


バスターミナルのテラスから

野外の喫煙所で一服していて穂高の山を眺めていたら本当に綺麗というか久しぶりの大自然の中での開放感が湧いてきてこの風景をいつまでも観ていたくなった。そこで今回初めて写した写真がこれだった。実際今はこの写真を
PCの壁紙にしている。

午後3時前にターミナルを出て宿泊する上高地アルペンホテルに着く。その間高さ30mはある原生林の間を抜けて梓川沿いに河童橋をわたるのだが、川沿いにはキャンバスを立てて穂高連峰の画を書いている人がそこここにいた。確かに天気も良く雲ひとつないとは言えないのだけれど、それ程残したくなる絶景なのだ。


梓川から観た穂高連峰


上高地アルペンホテル

チェックイン時には登山であるか散策であるかを確認された。それもそのはずで僕のかっこは完全に登山スタイルだからだ。部屋は相部屋なので鍵はない。しかし紅葉もはじまっていない時期であるからか2段ベッドが5組ある相部屋は僕ひとりだけである。これには個室をとらなくて良くて、くつろぐ事ができる。早速、リュックを下ろして散策へとでかけた。


梓川沿いの風景

河原からの河童橋


まずはホテルのすぐ下の梓川の河原でゆっくりして四方を眺めていた。



梓川でのオシドリ

山々に魅入っていたら足元の水辺では数羽のオシドリがまるで東京の鳩の存在であるようにゆっくり餌を探しながら歩いたり川に揺られたりしていた。空気は澄んでいて半袖では少し寒いくらいで秋を感じるには丁度心地よい風が僅かに吹いていた。散策にはこれくらいがいい塩梅なのだ。

時間も時間なので散策目標を河童橋から3.3km先にある明神池にして歩き始めた。片道70分くらいの道程になるのだが、落陽が早い山中ではこれくらいが丁度良かった。暫く川沿いを歩いた後、尾瀬などでよく見かける木道(2枚の板で繋げられた細い橋のようなもの)を進んでゆく。


河童橋〜明神池間にある沢

途中では沢などがあって水の音と靴音以外は聞こえない。所謂僕の唄で言えば静かな風景なのだ。
(といってもこの唄は軽井沢をイメージして作ったのだが)。道すがらハイキング帰りの人達が通り過ぎる。だいたいこの時間に山側へ向かって歩いているのは僕ひとりだけなのだ。その人達とは通り過ぎるたびに笑顔で「こんにちは」というくらいで足を止める事もなく進んで行く。


明神池

明神池に着いたのは午後
4時半頃。ここは穂高神社の神域にあたり、見学は優良(300)108日頃には御船神事として池に浮かべた木船で雅楽を演奏するそうだ。園内には一乃池、二乃池があるのだけれど正直言って有料で見学するほどのものではなく唯の溜池のようなものなのだ。ただ紅葉シーズンにはいいのかも知れない。今回客は僕しか居なくて別に何をするでもなく小さな5m弱の桟橋に佇んでその空気だけを吸っていた。


明神池のオシドリ

暫くするとまたまた1羽のオシドリがゆるりと水面を進んでいた。説明書きを見ると渡り鳥であるはずのオシドリが1年を通じて生息しているのはここにしかないらしい。驚いたのはその後でそのオシドリは急に桟橋に上がってきて僕の足元を警戒するでもなく通り過ぎ、また水面に戻っていった。さすがに自然保護地区の国立公園のせいなのか動物達が違和感なくそこらにいるのだ。明神池は10分程度いれば気が済む場所なので、林道とは反対側にある明神橋へと向かった。


明神橋

この橋は平成
15年にできた橋でまだ3年しか経っていない。この橋がある理由は梓川沿いの林道が両岸にあるのでそのUターンとして利用できるためらしい。


夕暮れ時の明神橋から西側の様子

雲行きが怪しくなってきたからか日の入りがせまったのかはわかり難いが、そろそろいい時間になってきたので来た道を戻る事にした。河童橋につく頃にはすっかり夕暮れ時になっていて人出もまばらになっていて人以外にみかけたのは親子の野生ニホンザルくらいだった。


夕刻の上高地アルペンホテル

ホテルに着くと薄暗くなった場所にポッカリと浮かんでいるように明かりがともっていた。午後
5時半過ぎのことだった。夕食は午後6時にたのんでいたのだけれど、温泉に浸かってからゆっくり食べたかったので午後630分からに変えてもらった。風呂は24時間(入替の午後11時〜午後1115分を除く)入れるので僕のような温泉好きには嬉しいこと。実際チェックアウト前の朝風呂にも入ったのだった。夕食は1階のレストランで摂るのだが少々アルコールも欲しかったのでスーパードライのグラス550円と地酒の冷酒(300ml)1,200円も注文した。ひとり旅で宿泊しているのは僕と金髪の女性(アメリカ人?)だけで、他は家族客や団体客だった。ちょっと後悔したのは選んだ料理のコースで、僕はハイカーズ料理という安いほうを選んだことだろうか。通常料理だと2,625円足せば食べられたのだ。一番大きな違いは岩魚の塩焼きとデザートが違うくらいだけど、今回の旅での教訓として「寝場所はケチっても飯はケチるな」ということだ。



ホテル内のロビー

食事も済みほろ酔い加減で吹き抜けのロビーで一服し、置いてあった電子ピアノ(YAMAHAクラビノーバ)を思うがままに弾いてみた。するとさっきの金髪女性がソファーで聴いていて曲が途切れるタイミングで拍手をしながら「Good Music」と言ってくれた。そからエレベータ脇にアップライトピアノもあったので、またまた弾いていた間、浴衣姿の僕の両親と同じ年齢位のご夫婦が全て聴いていたらしく弾き終えた後に拍手をしながら声をかけられた。そしてそのご主人の話では、先日知床半島へご夫婦で旅行した時にその宿泊場所で(名前は忘れたが)プロの演奏を聴く機会が会って素晴らしかったらしい。そして今回上高地に来られたそうなのだけれど、まさかここで夕食後にこんな気持ちいい演奏が聴けるとは思ってもみなかったとの事。「本当にいい思い出になりました。ありがとうございました。」といって下さった。ご婦人もその話を聞きながらにこやかにうなずいておられた。こういう予想外の状況は本当にいい記憶になる。まして唄ってもいないのにピアノの演奏だけで。

その後部屋に戻って何もする事がないので以前遠山さんが由井さんに薦めていた本鏡の法則を取り出してロビーの椅子に腰掛け一気に読んでしまった。感想はユング心理学で言う心の共時性(もっと砕いて言えば以心伝心だろうか)をわかりやすい短編小説にしていることだろう。短い話なので読んで損はしない内容だ。

そうこうしているとハードな1日だったせいか眠気が来てこの日は眠りについた。


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